神戸大学大学院医学研究科小児科学分野の増田祐大学院生、神戸大学医学部附属病院総合周産期母子医療センターの芦名満理子助教、神戸大学大学院医学研究科小児科学分野(こども急性疾患学部門)の藤岡一路特命教授らの研究グループは、母体の妊娠前肥満(BMI25以上)が、新生児におけるビタミンK欠乏の独立した危険因子であることを明らかにしました。今後、妊娠前肥満例に対する周産期でのビタミンK評価や補充戦略の有効性を検証することで、新生児ビタミンK欠乏性出血の予防につながることが期待されます。
この研究成果は、2025年9月16日に、『Nutrition』に掲載されました。
図1. 新生児ビタミンK欠乏の母体リスク因子 低栄養や消化器疾患に加えて、妊娠前肥満(BMI ≥25)も新たに独立したリスク因子であることを本研究が示した。低栄養や消化器疾患合併妊娠では「摂取不足・吸収不良」によるリスクが、肥満合併妊娠では「脂肪組織へのビタミンKの吸着・蓄積」によるリスクが考えられる。
ポイント
新生児のビタミンK欠乏(VKD)は、生命を脅かす「ビタミンK欠乏性出血(VKDB)※1」につながる。
従来は「低栄養」や「消化器疾患合併妊娠」によるビタミンK摂取不足・吸収不良が主なリスク要因と考えられていた。
本研究により、肥満合併妊娠もVKDリスクとなる新たな因子であることが初めて確認された。
肥満妊婦では脂肪組織にビタミンKが吸着・蓄積されやすく、胎児への供給が不足する可能性が示唆された。
母体BMIと新生児血中PIVKA-II※2濃度(VKDマーカー)には正の相関を認めた。
研究の背景
新生児は本来ビタミンKが不足しやすく、重篤な頭蓋内出血などを引き起こすVKDBのリスクを抱えています。日本では出生直後からのビタミンK投与が標準予防策ですが、母体側のリスク因子は「低栄養」「消化器疾患」といった栄養摂取不足や吸収不良に限られており、肥満はこれまで注目されていませんでした(図1)。
研究の内容
本研究では、2018年から2023年にかけて神戸大学医学部附属病院に入院した新生児2,694例のうち、出生当日にビタミンK欠乏の指標となる血清マーカー(PIVKA-II)を測定できた症例を解析しました。その結果、64例がビタミンK欠乏(PIVKA-II 1000 mAU/mL以上)に該当し、同じ性別・在胎週数でマッチングした128例を対照群として比較しました。解析の結果、母体の妊娠前肥満(BMI 25以上)は、低栄養や消化器疾患の既知のリスクと同様に、新生児ビタミンK欠乏の発症と有意に関連していました。多変量解析では、妊娠前肥満はオッズ比3.97(p<0.001)と独立した危険因子として抽出されました。
図2. 新生児ビタミンK欠乏(VKD)に関連する母体背景因子の多変量ロジスティック回帰分析
また、母体の妊娠前BMI値が高いほど、新生児の血清PIVKA-II濃度も上昇するという正の相関関係が確認されました(相関係数r=0.285, p<0.0001)。
図3:PIVKA-Uと母体妊娠前BMIの相関 母体妊娠前BMIは新生児PIVKA-II値(mAU/mL, r = 0.285, p < 0.0001)と有意な正の相関を示した。
これらの結果は、従来リスク因子とされてきた「低栄養」や「消化器疾患」に加え、「肥満」もまた新たな危険因子であることを明らかにしたものです。特に肥満妊婦では、体内の脂肪組織にビタミンKが取り込まれてしまい、胎児や新生児に十分な量が供給されにくい可能性が示唆されました。
引用元:
妊娠前の母体肥満が新生児のビタミンK欠乏リスクを増加(神戸大学)