地元で子どもを産みたくても受け入れてくれる病院やクリニックがない――。そんな母親たちの声に自治体は知恵を絞り、医師たちは奮闘を続けている。
和歌山県有田市糸我町の保育所跡地に4月から民間の「ファミール産院ありだ」が開院する。有田市と湯浅、有田川、広川の1市3町による有田地域では、医師の働き方改革で一時、分娩(ぶんべん)受け入れの継続が困難になる見通しとなった。そこで有田市は、民間の産科クリニックを誘致し、地域での分娩受け入れが継続できることになった。
有田地域では、有田市立病院(同市宮崎町)が2019年12月、医師の退職を理由に分娩を休止した。さらに21年12月には、有田川町の民間クリニックも受け入れを休止。分娩を受け入れる医療機関が一時、地域内から消えた。
しかし同月、有田市の働きかけにより、島根県浜田市出身の平野開士(はるひと)医師(51)が広島県から市立病院に着任した。そして22年2月から分娩受け入れを再開。それからは、平野医師が担い続けてきた。
ところが、再び分娩休止の危機に陥る。今年4月から施行される「医師の働き方改革」で、勤務医の時間外労働が年960時間に制限され、分娩の継続には5人の医師が必要になることがわかった。
1人の医師を確保するだけでも困難だった市立病院にとって、さらに4人の医師の確保をするのは現実的ではなかった。そのため有田市は、働き方改革の対象にならない「事業主となる開業医による民間クリニックの開院」での対応の可能性を模索。そしてファミール産院ありだの開院にこぎつけた。
ファミール産院ありだは、千葉や東京で産科クリニックを開院する医療法人社団「マザー・キー」が運営する。今回の開院を機に市立病院の平野医師が理事と院長に就く。また運営にあたっては有田市と3町で1年あたり計1億5千万円を折半し、補助する。
同法人の杉本雅樹理事長は、有田地域に縁もゆかりもない。しかし、「思いは痛いほどにわかる」と話す。33歳で独立し、常勤医として1人で分娩を受け入れてきた経験があるからだ。有田市が他の医療法人との交渉がうまくいかなかったことも知って「ならば、私たちがやろう」と引き受けたという。
3月9日にはクリニックの開院記念式典があった。平野医師が「ここで医師として最後まで働くつもりだ」と決意を述べた。そして、出会いを大切にする▽家族と思って診る▽故郷を守る――の三つを大事にしていきたいとも語った。
また、望月良男・有田市長は、「未来への命を育む場所をつくる投資の重みを、今の社会はしっかり地に足つけて考えなければならない。お金を出すので(遠くに)行ってください、そんな政策では、今の日本の(少子高齢化の)課題が解決できない」と話した。
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同クリニックで出産予定の女性たちは、地元で出産できることに「安心」と話す。
広島から里帰り出産する坂巻貴子さん(32)は初産。「産前も産後も母にアドバイスやサポートをしてもらえる安心感がある」と語る。同じく初産の山本祐実さん(27)は「漠然とした不安もあった。だから、家に近いほうが安心できる」と話す。
江川麻美さん(23)は、1人目を和歌山市内で出産した。当時を振り返ると「大きなおなかで移動するのは大変だった」。だから、「地元で出産できるのはうれしい。上の子の面倒も間近でみてもらえる」と話していた。(下地達也)
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和歌山県医務課によると、県内で分娩を取り扱う病院と診療所は大幅に減っている。2017年には9病院、13診療所で出産できたが、23年4月1日現在では8病院、7診療所となっている。
県内の和歌山、那賀、橋本、有田、御坊、田辺、新宮の7医療圏のうち、那賀医療圏では、公立那賀病院(紀の川市)が20年に分娩受け入れを休止。出産ができる病院・診療所はゼロになった。
同医療圏の岩出市は、妊産婦の健診や出産にかかる交通費の負担を減らすため、1人あたり一律3万円を給付する事業を始めるとして、24年度当初予算に1200万円を計上した。
県医務課や有田市立病院によると、分娩休止が相次ぐ背景には、24時間態勢を強いられる激務や、産科医の高齢化、人口の多い都市への医師の集約などがあるという
引用元:
「有田で産みたい」 ママの願いに応えるクリニック来月開院(朝日新聞DIGITAL)