変わることない当事者の悩み
10月最初の週末、私が代表を務めるNPO法人Fineは年に1度の妊活・不妊イベント「Fine祭り」(写真)を開催し、盛況のうちに終了いたしました。
このイベントで、いくつか再認識したことがありました。Fineは設立16年目を迎え、私はそれ以前から不妊治療をしていたので、20年以上はこの業界(?)を見ていることになります。時代の流れとともに「不妊を取り巻く環境」も変化しつつあることを感じていますが、一方で20年間ほとんど変わっていないこともあります。
変わらないのは、不妊当事者の悩み・課題です。Fineでは不妊治療の悩みを大きく「身体的負担」「経済的負担」「時間的負担」「精神的負担」の四つに分類していますが、このすべての悩みは20年以上ほとんど変わっていません。例えば、「不妊治療をしていることを周囲に話しづらい」などは、その最たるものです。いまだに不妊を特別なものとしてタブー視する風潮は、当事者の様々な負担を生み出すことにつながっていると感じています。
自ら申し込み、妻を連れてイベント参加する男性
しかし、変化もあります。特に興味深いのは、このイベントへの男性の参加が目立ったことです。Fineのイベントはもともと、カップルで参加される率は高いのですが、今年の特徴は「男性が申し込み、妻を連れてきたパターン」が例年以上に多かったこと、さらに男性1人のお申し込みも見受けられたことです。これは、これまでにほとんどなかったことです。「妻を連れてきた」という男性と奥さまに、「匿名なら」と許可をいただき、少しお話を伺いました。
夫婦ともに30代前半で、結婚2年目。不妊治療を始めたばかりだそうです。「その年齢で、まだ結婚2年目なのに、どうして?」と尋ねると、奥さまが「子どもは2人欲しいので、できるだけ早く1人目を授かりたいと思って」と答えてくれました。また。「メディアで卵子や精子が老化するなどの情報を得たため、検査だけでも行った方がいいと思い、近所の産婦人科に行ってみた」とのことでした。
「妻はいつもネットやSNSから情報を得ているから、それで十分で、『リアルな集まりには行きたくない』と嫌がったんですよ。でも僕は、ネットの情報は、どこまで真に受けていいのかわからなかったし、今の自分たちの状態を知るために専門家のアドバイスが欲しかったんです」と、イベントで受けられる専門家(不妊症看護認定看護師/認定臨床エンブリオロジスト)による無料個別相談も目的の一つだったと話してくれました。
しかし、実際に参加してみて、奥様に気持ちの変化があったそうです。「実は、おしゃべり会や体験談発表には正直ぜんぜん興味がなかったんだけど、来てみたらすっごく良くて! 『おしゃべり会って言われても、何をしゃべればいいの?』って思っていたけど、旦那君と一緒に行ってみたら、気が付いたら自分からどんどん話しちゃって。『旦那君いなければ、もっと話しやすいのにな』とかまで思っちゃって(笑)」と、明るい笑顔で話してくれ、それを見ている旦那さまも「ね、来てよかったでしょ」とニコニコしている、そんなお二人の姿が印象的でした。
以前なら女性だけ たまに来た男性は「連れてこられた」感満載
そう、なんだか「妊活男子が増えている!?」 これが一番の変化かもしれません。男性不妊が注目されて数年たちますが、不妊の原因が男性にある・ないにかかわらず、こうしたイベントに参加したり、クリニックの勉強会や説明会に出向いていったり……。真剣なまなざしで話を聞き、終始メモを取る熱心な「妊活男子」は確実に増えていると感じます。なんとうれしいことでしょうか。
20年前には、妊活や不妊の催しがあっても(そもそも、そういうものも少なかった)、そこに集まるのは女性だけ。男性は一人もいないのが普通でした。長年「不妊は女性だけの問題」と思われてきたのです。たまに男性が出席しても「無理やり連れてこられました」感満載で、不本意そうにそっぽを向き、話をほとんど聞いていなかったり、居眠りをしていたり、途中で帰ったり、そんな男性が多かったように思います。それが、今や夫が積極的に申し込みをし、妻を連れてくる! 非常に大きな変化と言えます。
妊活は2人で取り組むもの 男性の「当事者感」に変化
これはひとえに、男性の「当事者感」に変化があったからでしょう。昔は不妊の原因は女性だけにあるとされていましたが、今は男性にも原因がある割合が半分あるということも、少しずつ浸透してきました。そして妊活や不妊治療は、最初から2人で取り組むものだということも広まりつつあることを実感しています。これは本当に喜ばしく、望ましいことです。
現在上映中の「ヒキタさん!ご懐妊ですよ」という映画も、まさに「男の妊活」をテーマとしています。これは、男性不妊をきっかけとして不妊治療が始まる夫婦のラブコメディーなのですが、主人公のヒキタさんのように、まっすぐに妊活に取り組む男性がもっと増えるといいなと思います。そして、妊活はカッコ悪いことじゃなく、むしろ「愛する人との家族を増やそうとするポジティブアクションである妊活はカッコいいことだ」、こんなスタンスが広がると、多くの不妊に悩むカップルは悩みを少し軽くすることができるでしょう。妊活男子の更なる活動を、大いに応援します! (松本亜樹子 NPO法人Fine=ファイン=理事長)
引用元:
妊活男子が増えた!? 不妊イベントに妻を誘って参加 この20年で一番の変化(ヨミドクター)