乳がんの手術で失った乳房を、人工乳房で再建する女性が増えている。日本人の胸の形に合った製品が四年前に保険適用となったためだ。だが医療機関は大都市圏に偏在し、治療情報が誰にも身近になったとはいえない。そんな現状の改善を目指し、専門家や患者会が動いている。
乳がん患者は年々増え、国立がん研究センターは二〇一六年の発症者を九万人と推計。早く見つければ比較的治りやすいが、治療で胸が傷つきふくらみを失うことは、深刻な喪失体験になり得る。
このため、部分切除手術と放射線を組み合わせる乳房温存療法でも全切除(全摘)と生存率が変わらないことが明らかになると、自分の乳房を残せる温存療法が主流となり「近年まで乳がん手術全体の約六割を占めていた」と日本乳癌(がん)学会理事長の中村清吾・昭和大乳腺外科教授は話す。
全摘後に患者の腹部などの筋肉や脂肪を移植する、自家組織による乳房再建は保険適用されていたが、技術的に難しい手術でもあり、実施できる施設は限られていた。一三年、シリコーン製の人工乳房を使う再建手術に初めて保険が適用され、翌一四年に自然な胸の形に近い「しずく形」の人工乳房も保険の対象になると、状況は変わった。
東京のがん研究会有明病院形成外科の沢泉雅之部長は「それまでの『乳房を残すか失うか』の選択から『残すか取って再建するか』の選択になった」と表現。中村さんは「がんをしっかり取り除いた上で、見た目を犠牲にしない選択が可能になった」と言う。
人工乳房を使う再建では、乳がんの手術時に「エキスパンダー」という風船状の器具を胸に挿入、約半年かけて生理食塩水を少しずつ注入し胸の皮膚を十分に伸ばしてから人工乳房に入れ替える方法が主流だ。
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会の調べでは、エキスパンダーで再建に着手した患者は一三年は千二百八十一人。それが一四年は四千七百五十人、一五年五千六百五十一人と増加。だが手術の多くは大都市圏、特に首都圏に集中し、地域格差が大きいという。沢泉さんは「質の高いがん治療を全国で提供すべきなのと同様に、再建も全国で受けられるようにすべきだ」と強調し、医師の研修を積極的に受け入れる。
一方日本乳癌学会は、学会の専門医が所属する全国の医療機関が、乳房再建を含むどんな診療を提供できるかを患者に示そうと施設アンケートに着手。「一施設ですべて対応するのは難しいが、他の施設と連携して地域の患者の再建ニーズに応える体制を整えたい」と理事長の中村さん。
患者の立場で乳房再建の自己決定を応援しようとの動きもある。乳がん体験者の会「一般社団法人KSHS」(キチンと手術・ホンネで再建の会、事務局・東京)は、リアルな知識を得たい女性のため、先輩患者から再建の体験を聞き、再建した乳房に触れることもできる集まりを開いている。自身も再建した代表理事の溝口綾子さんは「満足も不満も含め、体験者の本音を直接聞けたのが自分の意思決定の決め手になった」と語る。
NPO法人キャンサーネットジャパンも、再建者の体験談をインターネットで公開中(団体名で検索)。
引用元:
乳がん手術 全摘後に再建 人工乳房で選択肢広がる(東京新聞)