頭がズキズキ痛む、せきがコンコン出る。こうした擬音語や擬態語を総称してオノマトペと言う。もやもやした感覚や感情を一語で的確に表現できる。診療で使うと、患者の満足度を高め、治療にも役立つことがわかってきた。

 「ビリビリ」「ウルウル」「ズキンズキン」

 東京都内の女性(60)は2010年から、井上眼科病院(東京・御茶ノ水)に通院している。主治医で名誉院長の若倉雅登さんは、カルテに、訴えをそのまま記録している。

 目の痛みでも、時によりしっくりくる表現が違う。若倉さんは「症状の悪化や軽快などを判断する手がかりになる」と話す。

 女性は「自分のつらい症状を理解してほしい一心で、擬態語の表現を使い始めました」と話す。

 青森公立大(青森市)准教授の植田栄子さん(社会言語学)は昨年、診療現場とオノマトペに関する研究成果をまとめた。東京、大阪、名古屋の医療機関の内科外来で、患者と医師の同意を得て録音した会話111件を活用した。うち42件(38%)で、オノマトペが使われていた。患者は、症状をうまく伝えられた達成感や、医師から共感や理解を示された満足感が得られ、患者の発語も増えていた。


 医師から使い始めて、患者も使い出すケースが多かった。植田さんは「専門用語を操る医師の前で、生活に密着したオノマトペの使用をためらう患者もいる。医師が率先して使えば、患者から感覚や感情に関する豊富な情報をより引き出せる」と説明する。

 患者に積極的な使用を促す取り組みもある。臨床心理士の田中恒彦さん(4月から新潟大准教授)は、不安障害の患者のカウンセリングで、不安を抱く場面で起きた感覚をオノマトペで表現してもらう。

 ある患者は、車や電車に乗る時は「ゾゾッ」とし、夫との口論では「ズシン」とするなど、「不安」と一言で片づけていた症状も、場面によって、二つの異なる感覚が起きていた。患者はその後、避けていたこの二つの感覚を、様々な行動で体験して慣れることで恐怖心を減らしていった。田中さんは「オノマトペでは、患者に起こる複雑な感覚を整理して、スムーズな治療につながる」と話す。

 オノマトペの種類や使い方は地域性がある。12年3月、国立国語研究所(東京都立川市)は、地元の医師の協力で、青森、岩手、宮城、福島の4県で使う、体調や気分に関する言葉の意味や使い方をまとめた 東北方言オノマトペ用例集 を作成した。東日本大震災の被災地で支援を行う医療者らの活用を想定、医療・介護施設などに配った。

 「えがえが」(鋭く刺すような痛み)、「はかはか」(息切れや 動悸どうき で胸が苦しい)、「さらさら」(悪寒がする)など、地域特有の表現が収録されている。

 当時、同研究所非常勤研究員として作成の中心を担った方言研究者の竹田晃子さんは「医療者が方言を知らなければ、患者の適当な造語と勘違いして、重要な訴えを聞き流してしまう。医療者と方言研究者による用例集作りの動きが広がってほしい」と話している。

 

  東北方言オノマトペ用例集  オノマトペを約100項目に分類し、身体部位の名称や東北方言の特徴も記載した。国立国語研究所のホームページ( https://www.ninjal.ac.jp/pages/onomatopoeia/ )からダウンロードできる。(中島久美子)


引用元:
モヤモヤ、ウルウル…症状表現に「オノマトペ」活用広がる(ヨミドクター)