晩産化と不妊治療(2)

 前回、不妊治療とお金の問題について書きました。今回は、「2人目不妊」の問題を取り上げ、仕事と育児と不妊治療の同時進行の厳しい状況について報告します。

晩産化と2人目不妊の悩ましさ

 晩産化が進むなか、第2子をなかなか授からず、悩む人が増えています。第1子出産年齢の上昇に伴って第2子を望む年齢も高くなり、加齢によって妊娠しにくくなることがその理由の一つです。

 実際に、子供1人の家庭が増えています。国立社会保障・人口問題研究所が2011年に公表した「第14回出生動向基本調査」によると、「最終的な子供の数」が「1人」となった夫婦の割合は、1980年代〜2002年には9%前後でしたが、10年には16%に増えました。

 しかし、「理想の子供の数」はそれより多く、80年代から10年まで約9割の回答者が2〜3人と答えており、1人と答えたのはわずか2〜4%程度です。

 大阪府不妊専門相談センターが公開しているデータによると、2人目不妊の相談割合が年々増加し、14年までの5年間で3倍近くに増えています。不妊治療患者のうち、2人目不妊の治療をしている人の割合は2〜3割だといわれています。

 いまの日本社会では、働き続けるのも、子供を持つのも、子育てするのも大変です。それなのに、ようやく1人授かっても、「2人目はまだ?」「一人っ子はかわいそう」と周囲から圧力がかかります。



職場では話せない不妊治療の事情

 横浜市在住の木村久美子・誠さん夫妻(40代、仮名)は、結婚してすぐ息子(現在は5歳)を授かりました。しかし、第2子を望んでいながらなかなか妊娠しませんでした。「息子にきょうだいをつくってあげたい」と、30代後半になって不妊治療専門病院で体外受精を始めました。「体外受精」は、体の外に採り出した卵子に精子をふりかけ、受精させる治療法です。

 体外受精の治療は、「不妊」の原因が男女どちらにあっても、女性の負担が大きくなりがちです。非正規社員の久美子さんにとって、通院はかなりのハードルの高さ。治療法にもよりますが、1回の体外受精に5〜10日程度通院する必要があります。自分で予定は組めません。卵の成長にあわせて、急に次の来院日を指定されます。

 久美子さんは、不妊治療中であることを職場の上司や同僚に話せませんでした。今後妊娠する可能性があると知られたら、1年ごとの契約が、更新されなくなるかもしれないからです。久美子さんが職場に事情を明かさないまま急な早退や休みを繰り返したため、「何でそんなに休むの?」と周囲から不満の声が上がるようになったのです。

 仕事をやめることも考えましたが、1回30万〜50万円かかる体外受精の費用を捻出するには、働き続ける必要があります。久美子さんにとっては肉体的・精神的にかなりのプレッシャーです。

「仕事と育児と治療」同時進行の苦しさ

 夫の誠さんの治療は、月に1度自分で精子をカップに出して提出する「採精」のみ。治療上の負担も主に、女性である久美子さんにのしかかります。

 週によっては、自宅、保育園、職場、病院を行き来する日が2〜3回あります。久美子さんは午後4時過ぎに職場を出て、近くの病院に急ぎます。患者が多く、常に2時間ほど待たされます。そのうえ、卵がうまく成長していないと告げられれば気分が落ち込み、ストレスがたまります。

 診察が終わると今度は駅へ。延長保育が終わる夜8時までに保育園へお迎えに駆けつけます。帰宅後、夕食を取り、息子の寝かしつけや後片付け。就寝するころにはヘトヘトですが、翌朝6時には起きて朝食や登園・出勤の準備をしなければなりません。

 急に医師から休日の来院を指定されたとき、誠さんが仕事なら、息子の預け先探しに苦労します。第1子治療の患者に配慮して、病院には「お子さま連れでの来院は平日午後に限定させていただいております」という張り紙があるからです。

 久美子さんは、仕事と育児と治療の同時進行がハードなうえに、職場の人間関係がぎくしゃくし、金銭的負担も大きく、疲れ切ってしまいました。けれども、ついくじけて治療をやめたら、「息子を一人っ子にしてしまう」と、罪悪感にもさいなまれるのだそうです。



「子供2人」という標準意識と一人っ子への偏見

 一人っ子は「わがまま」「競争心がない」という話があちらこちらで聞かれます。しかし、大阪市立大学の弘田洋二教授(臨床心理学)はこの見方に否定的です。

 「きょうだい関係の良い側面だけを思い描いて、子供の発達の不調を少子化と結びつけて語る論考が多く見られる。1世帯あたりの子供の数が多かった時代にはそれが人々の感覚に合っていたのだろうが、少数派である一人っ子への偏見にすぎない」

 実のところ、「一人っ子はわがまま」などの説は多数の研究が否定しています。「協調性」「社交性」「リーダーシップ」という項目で、一人っ子ときょうだいのいる子の間に有意な差はない、と結論づける研究もあります。

 一人っ子への偏見は、戦後に広まった「理想の子供数は2人以上」という意識と言説が、今も根強いことと無関係ではないでしょう。

 現実には、経済環境の変化や女性の社会進出によって、晩婚・非婚化が進み、家族の形は多様化しています。にもかかわらず、夫婦と血縁による子供2人の標準家族という「あるべき姿」が、人々を苦しめているのではないでしょうか。


引用元:
“4人家族幻想”が生む「2人目は?」プレッシャー(毎日新聞)