東京大学医科学研究所の研究グループは、へその緒(さい帯)に多く含まれる幹細胞を利用した治療薬の開発に乗り出す。

 細胞のもとになる幹細胞は、炎症を抑えたり組織を修復したりする働きもある。まずは血液がんの治療で重い合併症を発症した患者で、国の承認を得て、2016年度にも安全性や有効性を確かめる臨床試験(治験)を始め、20年頃に製品化したい考えだ。研究グループの長村登紀子准教授によると、さい帯の幹細胞を使った薬の開発は国内で初めて。

 計画では、妊婦の同意を得た上で出産時にさい帯を提供してもらい、同研究所内の「バンク」に凍結保存。その後、さい帯の幹細胞を培養し、点滴用の薬として加工する。

 治験は、血液がんで骨髄移植などを行った後に、肝臓障害や下痢などが起こる急性の移植片対宿主病いしょくへんたいしゅくしゅびょう(GVHD)の患者が対象。命にかかわる合併症で、開発を目指す薬で肝臓や腸などの炎症を抑える。通常行われるステロイド治療で改善しない重症患者10人程度に点滴し、安全性などを確かめる。

 急性GVHDの治療薬としては、骨髄の幹細胞で作る治療薬が既に承認されているが、提供者の腰の骨に針を刺して取り出す必要がある。一方、さい帯は最近では廃棄されることも多く、提供者の負担や危険がない。長村准教授は「GVHDで安全性や効果を確かめた上で、脳が損傷して、手足がまひする脳性まひに対し、脳組織の修復を目指す薬の開発などにも取り組みたい」と話している。

 室井一男・日本輸血・細胞治療学会理事長(自治医大教授)の話「さい帯の幹細胞は、炎症を抑えたり組織を修復したりする能力が高いとされ、脳卒中や糖尿病、炎症性腸疾患など、様々な病気の治療薬として期待できる。1本のさい帯からどの程度の薬を作れるか、複数のさい帯の幹細胞を1人の患者に投与しても問題ないかなど、今後、検討していく必要がある」

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移植片対宿主病(GVHD) 血液がんの患者に対し、他人の骨髄やさい帯血などの細胞を移植する治療を行った際、移植した細胞が患者の体を異物と見なして攻撃することで起こる合併症。肝臓障害や下痢などの症状が出て、命にかかわることもある。治療が必要な急性GVHD患者は年間1200人程度と推定されている。

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提供者負担なく活用

 さい帯の幹細胞を使った治療薬は、炎症を抑えるなど、人の幹細胞が持つ多彩な働きを生かす新しいタイプの薬だ。廃棄されるさい帯を、提供者の負担なく採取・活用できるという利点は大きい。

 国は、様々な細胞を使った治療薬の開発を後押ししている。2014年には、安全性が確認できて効果が見込めれば、条件付きで早期承認する制度を導入した。

 今後、現在は有効な治療法がない難病などの患者の手元に、少しでも早く、有効な治療薬が届くようになる可能性がある。

 ただし、新しいタイプの治療薬の長期的な安全性はわかっておらず、予期せぬ副作用が起こる可能性は否定できない。開発は慎重に進める必要がある。(医療部 利根川昌紀)

(2016年1月27日 読売新聞)

引用元:
へその緒幹細胞で新薬…炎症抑制効果、まず骨髄移植合併症に(yomiuri)