乳がんの進行や転移の検査を、血液検査でできるようになるかもしれない。

 がんに直接注射針を刺して吸い出す現在の細胞診が不要になれば、体の負担は減り、検査が頻繁にできるようになりそうだ。

「女性ホルモン受容体」のがんに注目
 ベルギーのアントワープ大学のブラム・ドゥ・ラーレ氏をリーダーとした研究グループが、2015年5月7日から9日にかけてベルギーのブリュッセルで開催されたインパクト(IMPAKT)2015乳がん会議で発表したもの。

 乳がんのおよそ3分の2は、女性ホルモンの影響を受けて増殖が促進される。そのようなタイプの乳がん細胞には、女性ホルモンを受け止める「女性ホルモン受容体」が出ている。

 女性ホルモン受容体陽性の転移性乳がんでは、がんの増殖アクセルの一部となる「PIK3CA遺伝子」が突然変異を起こしている頻度が高い。PIK3CA遺伝子は、病気の進行具合を知るための目印にできる可能性がある。

 研究グループは、PIK3CA遺伝子を目印にした乳がんの検査を、血液検査で簡単に行いたいと考えた。今回、血液に微量に存在する「血中循環腫瘍細胞(CTC)」などを調べる方法で、PIK3CA遺伝子の突然変異を確かめられるか検証した。

最新装置でCTCを採取
 CTCは、元の乳がんから離れて血液の中を流れているがん細胞。血流に乗って体中を巡るので、転移の原因にもなる。CTCは1回分20mL程度の採血で数個しか取れない希少ながん細胞なので、調べたい場合には感度の良い検出システムが必要となる。

 研究グループは「セルサーチ(CellSearch)」という最新のCTC解析システムに「デプアレイ(DEPArray)」という方法を組み合せて検査に使おうと考えた。この組み合わせは、わずか1個のCTCから、PIK3CA遺伝子の突然変異を確かめられる最新の分析技術だ。

 検証の対象者は、転移性乳がんで女性ホルモン受容体陽性の29人。存在すると確かめられた陽性の女性ホルモン受容体は「エストロゲン受容体」「プロゲステロン受容体」の2つ。乳がんでは、悪性度に関与するHER2というタンパク質が出ている場合も多く見られるが、今回の対象者は、HER2は出ていない人とした。

血中の死んだがんのDNAも解析
 これらの29人から採血を行い、「セルサーチ+デプアレイ」を行った。

 採取できたのは、血中に単独で存在したCTCを合計249個。さらに、5個から120個までの細胞の塊として血中に存在したCTCを148。4個から20個までの細胞の塊として血中に存在した白血球を58。

 血液のうち、血球成分を除いた液体成分からは、「血中循環DNA(cfDNA)」を精製した。cfDNAは、死んだがん細胞から完全に離れてDNAだけの状態になって血流に乗って体を巡っているもの。検査用に初期の段階で採取してホルマリン固定してあった乳がんの組織からもDNAを精製し、これを比較対象とした。

 それぞれのサンプルにおけるPIK3CA遺伝子の突然変異は「パイロシーケンス法」という方法で調べた。

ホルマリン固定、CTC、cfDNAで結果ばらつく
 結果、ホルマリン固定してあった初期の乳がんでは、59.2%でPIK3CA遺伝子の突然変異が起きていた。

 21人のcfDNAでPIK3CA遺伝子の突然変異が検出できた。このうち42.8%は、ホルマリン固定の乳がんでは突然変異が確認されていなかった。

 22人のCTCでPIK3CA遺伝子の突然変異が検出できた。このうち27.2%は、ホルマリン固定の乳がんでは突然変異が確認されていなかった。

 初期の乳がんではなかった突然変異が、転移を起こした人で見つかる場合があると分かった。

 同じ人から採取したcfDNAとCTCで、PIK3CA遺伝子の突然変異が一致しなかったのは22.7%で、8割方は一致していた。

突然変異は時間差で起こる
 ホルマリン固定の乳がん組織、CTC、cfDNAの3つ全てを調べた18人のうち、PIK3CA遺伝子の突然変異が全てで検出されたのは、55.5%だった。

 18人中4人(22.2%)は、乳がんをホルマリン固定した時点ではPIK3CA遺伝子の突然変異が起きておらず、がんの進行後のCTCとcfDNAで突然変異が検出された。cfDNAで突然変異が検出できなかったのは18人中4人(22.2%)だった。

がん細胞だけで突然変異
 全員、同じ血液中に含まれる白血球のPIK3CA遺伝子は突然変異を起こしていないと確認された。PIK3CA遺伝子の突然変異はがん細胞のみで起きており、「セルサーチ+デプアレイ」での血液検査はそれを高い精度で検出できると確認できた。

 さらに、全てのCTCでPIK3CA遺伝子の突然変異が起きているわけではなくても、突然変異を起こしているCTCが1つでも存在すればそれを検出できると分かった。

 26人中の10人(38.4%)では、CTCに2つの突然変異が生じていると検出できた。病気の進行で変わってくる突然変異の状態を血液検査で進行の段階ごとに調べることができそうだと分かった。

検査や治療に広く応用可能
 CTCよりcfDNAの方が、解析が簡単なこともあり、今後は血液検査でcfDNAを調べる検査の開発に力を入れて進めていきたいと研究グループは述べている。

 PIK3CA遺伝子の突然変異は、初期の乳がんでは起きていなくても、転移が見つかると生じている場合があるなど、がんの進行に関連して起こると分かった。血液検査は大がかりな検査ではないので、この方法を使えば頻繁に検査でチェックするのが可能になるだろう。

 さらに、このように遺伝子の突然変異をリアルタイムに調べられれば、転移性乳がんの人それぞれにより合う薬への応用につながる可能性もあると研究グループは述べている。

文献情報
IMPAKT 2015 News: A Circulating Tumour Cell Liquid Biopsy May Be Used for Non-Invasive Mutational Analysis in Patients with Breast Cancer



引用元:
乳がんの進行や転移が採血だけで分かる、時間差で起こる遺伝子の突然変異も正確に診断(Medエッジ‎ )