国内では現在、6組に1組のカップルが子どもを望みながらも妊娠できず、約30万組が不妊治療を受けている。「不妊」はまさに国民病とも言える状態だ。

 高齢になってから妊娠を望む人が増え、体外受精による治療を受ける人のピークは39歳に達している。しかし、35歳を超えると流産率は加速度的に上がる。35歳までは20%だが、35歳〜37歳は50%、40歳を超えるとほとんどが流産する。当院での体外受精後に流産した原因の約8割は染色体異常だ。流産はものすごく辛い体験で、1回でもトラウマになってしまう女性もいる。流産をいかにして防ぐかは大きな課題だ。

 経済的観点からも、高齢女性に有効な治療法が求められている。不妊治療への助成金交付を受けた人の3分の2は結局、赤ちゃんができないままに終わっている。助成金の総額は全国で年間200億円を超える。2016年度から対象が43歳未満に限られるが、助成金をもっと有効に使うべきだという議論もある。

 着床前スクリーニングについて、当院で不妊治療を受けている92人にアンケートしたところ、「誰でも受けられるようにすべきだ」と「条件付きで認めるべきだ」を合わせると、97%が賛成だった。また、「実際に着床前スクリーニングを受けたいか」との問いには62%が「受けたい」と答えた。その理由としては「流産予防」(33%)、「健康な子どもが欲しい」(32%)などが多かった。

 自由意見では「『命の選別』は許されないかもしれないが、受精卵を調べれば流産の苦しみを味わわなくて済む」「30代後半で流産を繰り返すと、治療に向かう気力もなくなってしまう」「自分は高齢なので、障害のある子を育て、その子を残して先立つことはできない」といった切実なものが多かった。

 医療側としては、着床前スクリーニングは受精卵を子宮に戻す回数を減らせるので、母体に余計な負担をかけずに済む。例えば40歳くらいの女性だと、10個の受精卵を作っても、染色体に異常がなく、子宮に戻せる受精卵は実際には1、2個しかないからだ。

 晩産化が進む中、子どもを授かることはますます難しくなっており、不妊治療中の人は誰もが流産しにくい妊娠を望んでいる。そのための手段を選ぶ権利は認められるべきだと思う。/p>

 また、不妊治療をあきらめ切れない人も多いが、着床前スクリーニングですべての受精卵に異常が見つかれば、治療を終える決心がつくという声も聞く。

 生殖技術も原子力と同じで、技術は使い方次第で功にも罪にもなる。危うくなった場合は、国民全体で議論しながら法律で規制することも必要だろう。「命の選別」に反対する人々の気持ちにも配慮しつつ、慎重に研究を進めるべきだ。



引用元:
着床前検査、期待と懸念(2)流産予防に選択肢必要 (読売新聞‎)